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市政(平成26年2月)

公開日 2014年11月23日

更新日 2014年11月23日

 この寄稿文は、公益財団法人全国市長会館発行の「市政」平成26年2月号No.739に掲載されたものです。

輝くクオリティ・オブ・ライフ

 亀山市は、三重県の北中部、名古屋から約50km・大阪から約100kmに位置し、我が国東西の結節点として、また伊勢への分岐点として、古くから交通の要衡として栄えてきた。近年は新名神高速道路の開通による交通拠点性の高まりとともに、この10年余「亀山モデル」で一躍名を馳せた液晶産業の集積により、高度成長期以降の多業種のものづくり企業が立地する内陸工業都市の性格を一段と強めた。

 一方、鈴鹿山系や鈴鹿川に代表される豊かな自然環境にも恵まれ、歴史が織りなす佇まいを残した城下町・宿場町としての顔がある。市内には東海道53次の3つの宿場を有し、なかでも東海道で唯一国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている「関宿」は、今なお往時の面影を偲ぶことができ、多くの旅人を全国よりお迎えしている。

 また、市民の生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)を決定づける要素のひとつを健康と捉え、都市の環境と機能のすべてによって身体的・精神的・社会的な健康水準を高める必要があるというWHO(世界保健機関)が提唱する「健康都市」の考え方に賛同し、平成22年7月、本市は健康都市連合に加盟した。

 これら、都市を形づくる多様な要素が上手く結びつく高い結晶性によって「輝くクオリティ・オブ・ライフ」を創造し、50000市民一人ひとりの愛着と幸福実感の向上へとつながる『小さくともキラリと輝くまち・亀山』の実現を目指している。

文化振興ビジョン〜文化のみえる化プロジェクト〜

 さて、文化の力は、私たちの心に感動と創造の喜びや安らぎを与え、豊かな人間性を育む源泉であることは論を俟たない。とりわけ、個性的な歴史・風土・景観、伝統的な行事や産業、魅力ある生活文化などは、それ自体が価値を持つだけでなく、地域のアイデンティティを形成し市民の地域に対する愛着や誇りを育み、まちづくりの原動力になることに疑う余地もない。

 同時に、これらの貴重な文化資源を守り磨きをかけることは勿論、これから芽生えようとする分野を大切に育て伸ばしてゆくこともまた重要である。そのためには、文化が人や社会に作用する力、いわゆる「文化力」を高めるべく、本市の幅広い政策分野に文化戦略の視点を組み込んだ体系的な施策展開が必要となる。これらを踏まえ、平成23年3月、「亀山市文化振興ビジョン」を策定した。

 本ビジョンにおいて、文化振興により目指すまちの姿を「いせのくに亀山・文化創造都市〜伝統の文化と創造の文化の調和・発展〜」とし、3つの基本方針を定めた。また、その具現化に向けた9つの施策と3つの「文化のみえる化」プロジェクトを重点的に推進している。

歴史的風致のまちづくり

 本市の都市政策の柱のひとつは、歴史的文化資産を活かしたまちづくりにある。平成21年1月、市域を貫く東海道沿線19.5km・約500haを重点区域に設定した「亀山市歴史的風致維持向上計画」は、金沢市・高山市・彦根市・萩市の4市とともに、全国初となる歴史まちづくり法による認定を受けた。

 この計画は、日本の東西文化が交わり、独自の街道文化を育んできた東海道3宿(亀山宿・関宿・坂下宿)が有する、歴史的建造物の修復・修景、文化財の保護・活用、祭りなど人の営みに関わるハード&ソフト両面から歴史的・文化的な風情を磨き上げ、将来へと継承を図ろうとするものである。現在までに、亀山宿では城下町の象徴である亀山城多門櫓の復元・修理など、関宿においては長年にわたる町並み保存とあわせ街道祭りやスケッチコンクールの開催など、坂下宿では地域の伝統的な鈴鹿馬子唄や獅子舞の保存等に取り組んできた。この歴史的風致のまちづくりは、まさに地域文化の目に見える形の一つとなっている。

 また、この推進体制として、市役所の機構改革を行い、従来は教育委員会が所管していた文化財部門を市長部局に移すことで、都市計画部局との連携の強化を図っている。

商店街を活性化するアート

 本市の特徴的な取り組みの多くは、市民の力強い社会参加や協働の基盤に支えられている。そのひとつが、「アート亀山」である。市内在住の美術家が提案し、空洞化する中心市街地にある東町商店街にかつての賑わいを取り戻そうと商店主に呼びかけ、市民活動団体「アートによるまちづくりを考える会」が発足、平成20年から毎年秋にアートイベントを開催してきた。

 最初の2年間は、市内の作家が県内の作家に呼びかけ、商店街の店舗・空き店舗・広場・路地・寺院などで、現代アートの様々な作品が展示された。イベント開催中、商店街を歩行者天国にしてのライブペインティングや夕刻からの映像作品上映会などの非日常さが受け、商店主の協力による特売やご当地グルメ企画と相まって大いなる賑わいを見せた。

 平成22年より、考える会と行政との協働事業として企画し、若手アーティスト対象のコンペティション方式を取り入れ、県内外から61組が参加した。平成23年の「アート亀山2011」では「アーティスト・イン・レジデンス」を開催、全国から参集した若手作家9名が1週間ほど滞在して制作活動を行うなかで、市民や県民との交流が図られた。このアート亀山を機に、市内に移住する若手作家が現れたことも新鮮な驚きであり、文化の力が人々の交流を促進させ商店街を活性化させるサプリメントとなることを体感した。

文化会館のアート・マネジメント

 本市の文化政策を語る上で、亀山市文化会館を抜きに語ることはできない。市文化会館は昭和59年設置の公共施設であり、市民の文化芸術活動の拠点である。平成18年度には指定管理者制度を導入、長らくその運営を担ってきた「公益財団法人亀山市地域社会振興会」が現在その運営に当たっている。この地域社会振興会は、市民文化の向上と文化振興を図るべく、鑑賞型・参加型・育成型の3つの事業を柱に特色ある自主文化事業を企画・開催しており、その質・量ともに年々向上し多くの成果へとつなげてきた。

 特に音楽分野においては、30年余の歴史を刻む「さいまつコンサート」は、地元音楽団体の発表の機会であるだけでなく、世界的な指揮者・寺岡清高氏による大阪交響楽団と200名の市民参加による第九演奏会は、住民参加型事業として多くの市民に愛されてきた。また、演劇分野における「亀山ミュージカル」は、公募によるオーディションと厳しい稽古を重ねた参加者とプロ・アーティストとの共演による参加型事業として、平成16年から隔年で開催されている。さらに、次世代育成やアウトリーチ活動においても積極的な事業が展開されている。

 今日の社会経済情勢や行政経営環境を背景に、全国の公共文化施設の運営は厳しい局面を迎えているが、亀山市文化会館に限って言えば、芸術文化性の高い事業を身の丈に調和させていると考えている。それを可能とするのは、地域社会振興会が経営的な感性を備えつつ文化振興を図るという難解な「アート・マネジメント」のノウハウを蓄積させていることに尽きようかと思う。今後も「文化のみえる化」をめざす市の最強パートナーとして、その進化を期待している。

持続可能なまちづくりの「亀山モデル」

 亀山市は、この10年の激変期を全力で駆けてきた。市役所も多くの試行錯誤を重ね、そのなかから多くのことを学び、持続可能なまちづくりの重要性を再認識した。

 都市が持続的に成長し、市民の輝くクオリティ・オブ・ライフを実現するためには、分権時代にふさわしい地域経営の理念・政策・行財政システム・協働などが不可欠となる。一方、都市と生活の質を決定づける要素は、前述の健康や産業など多岐にわたるが、そのなかで最も重要な要素のひとつが、文化であると考える。私どもは今春、「かめやま文化年2014」と命名したアクション・イヤーを設ける。先のビジョンに掲げた「文化のみえる化」プロジェクトの一つだが、今後3年毎に年間キャンペーンとして文化芸術に関する事業分野を包括的・継続的に展開することで、文化の好循環を生み出し結晶性の向上を目指す。

 このように、「亀山モデル」の持続可能なまちづくりは、未だ道半ばにある。地方行財政を取り巻く環境も厳しい流れのなかにある。しかし、市役所が地域社会を構成する市民とともに協働を積み重ねることで、必ずや『小さくともキラリと輝くまち』の実現につながると確信し、怯むことなき挑戦を続けてゆきたい。